牽正まとめ:効能・取穴・関連症状

名称

  • 和名:牽正(けんせい)
  • 経穴分類:経外奇穴(頭頸部)
  • 英名:Qianzheng (EX-HN20)
  • 意味:牽(ひく)・正(ただす)=「歪んだ顔面を正す」という意。


取穴(位置・取り方)

  • 耳垂の前方約0.5~1寸、咬筋前縁の陥凹部に取る。
  • 口を軽く開閉させると、咬筋の収縮が感じられる。その筋腹の前縁で、陥凹を探して取穴。
  • 地倉(ST4)翳風(TE17)のほぼ中間に位置する。


解剖(近接構造)

  • 表層:皮膚、皮下組織、咬筋膜。
  • 筋層:咬筋前縁。
  • 神経:顔面神経の頬枝および下顎枝が走行。
  • 血管:顔面動脈・横顔面動脈の枝が分布。


東洋医学的作用(要点)

  • 祛風通絡: 風邪による経絡閉塞を除き、顔面部の経気を通す。
  • 和顔正口: 顔面神経麻痺・口の歪み・よだれ漏れなどを改善。
  • 通経活血: 局所の血行を促し、表情筋の拘縮や萎縮を緩和。


主な適応症

  • 顔面神経麻痺(ベル麻痺、中枢性を問わず)
  • 口角下垂・顔面の歪み
  • 顔面筋痙攣・頬部の痛み
  • 咀嚼困難・流涎(よだれ)


刺鍼法・施灸法

  • 刺鍼方向: 頬部に向けてやや前上方または後方に向けて斜刺。
  • 刺入深度: 約0.5~1.0寸(10~20mm程度)。咬筋内への刺入を避け、表層筋膜下に留める。
  • 施灸: 通常は温灸や知熱灸を用いる。慢性麻痺時に有効。
  • 注意: 顔面神経・血管に近接するため、強い刺激や深刺を避ける。


臨床のコツ・応用例

  • ① 顔面神経麻痺:牽正(EX-HN8)+地倉(ST4)頬車(ST6)翳風(TE17) → 顔面経絡を広く開き、筋肉の運動機能を回復。初期〜回復期に最も用いられる代表的配穴。
  • ② 口角下垂・流涎:牽正(EX-HN8)+水溝(GV26)合谷(LI4)太衝(LR3) → 顔面気血の流れを調え、口角の運動と表情筋の対称性を改善。
  • ③ 顔面拘縮・後遺症:牽正(EX-HN8)+下関(ST7)陽白(GB14)太陽(EX-HN5) → 顔面麻痺後の筋硬直や痙攣に。血流促進・経筋の柔軟化を図る。
  • ④ 美容鍼応用:軽刺激で刺鍼すると、口角リフトアップやフェイスライン引き締め効果も期待され、美容鍼分野でも応用される。



古典的背景

  • 「牽正」とは“正を牽く”=“歪みを正す”の意から名付けられた。
  • 明代『鍼灸聚英』に「治口眼喎斜(こうがんわしゃ)特効」と記される。
  • 顔面経筋の緊張を調整し、陰陽の偏りを正す要穴とされる。


臨床メモ

  • 急性期では、翳風(TE17)頬車(ST6)と併用して早期に気血を通じる。
  • 慢性期や拘縮期では、低周波鍼通電や温灸で筋の弛緩を促進。
  • 美容鍼分野でも「口角の引き上げ」目的で軽刺激使用例がある。
  • 顔面部への刺鍼のため、衛生・角度・深度管理を厳守する。

※本サイトは東洋医学における経穴の学習を目的としています。実際の鍼灸施術は必ず国家資格を持つ専門家にご相談ください。自己治療として刺鍼を行うことは危険ですのでお控えください。

0 件のコメント:

コメントを投稿