名称
- 和名:神闕(しんけつ)
- 経穴:任脈(CV8)
- 英名:Shenque (CV8)
取穴(位置・取り方)
- 腹部の中央、臍(へそ)の中心に取る。
- 皮膚表面の臍孔に一致する部位であり、任脈上の要穴。
解剖(近接構造)
- 臍部は腹膜直上に位置し、皮膚直下に腹腔がある。
- 臍輪(臍の瘢痕組織)は血管・神経の貫通がなく、臓器保護が極めて薄い。
- 臍下には小腸・腸間膜が接しており、刺鍼は厳禁である。
東洋医学的作用(要点)
- 回陽救逆: 極度の虚脱・意識消失などに用い、気を回復させる。
- 温補脾腎: 脾胃・腎陽を温め、虚寒による下痢・冷えを治す。
- 健脾和中: 消化吸収の機能を助け、胃腸の虚弱を改善する。
- 利湿除寒: 水滞・湿寒による腹部膨満やむくみを軽減する。
主な適応
- 虚脱、四肢冷感、意識消失。
- 下痢、冷え症、胃腸虚弱。
- 腹痛、腸鳴、嘔吐。
- 浮腫、排尿困難。
- 産後・病後の体力低下。
古典的記載・応用例
- 『霊枢・官能篇』:「臍者、五臓六腑之本、神気之門也。」—— 臍は五臓六腑の本、すなわち「神気の門」であると述べる。
- 『鍼灸甲乙経』:「治霍乱吐下、泄痢、腹中寒痛。」とあり、下痢や腹痛など冷えによる症状の要穴とされる。
- 『難経』:「神闕者、人之本也。」とあり、生命の根源的働きを司る重要穴として位置づけられる。
刺鍼法(安全重視)
- 刺鍼: 禁刺穴(絶対刺入禁止)。
- 施灸: 灸法専用穴として知られる。直接灸・隔物灸・塩灸・艾炷灸・温灸などが用いられる。
- 代表的な灸法:
- ① 塩灸:臍内に塩を詰め、その上に艾炷を置いて燃やす。急性の虚脱・腹冷・下痢に用いる。
- ② 生姜灸:臍上に生姜片を置き、その上に艾炷を重ねて温補する。慢性的な冷えや脾胃虚弱に適す。
- ③ もぐさ温灸:臍上に薄布を敷き、その上に大艾を燃やし広範に温める。産後虚弱や慢性胃腸症に有効。
臨床のコツ・刺鍼コンビネーション
- 神闕(CV8)は「回陽救逆の要穴」と呼ばれ、人体の生命力(元気)を蘇らせる最重要の灸穴です。 特に「下焦の寒」「脾腎陽虚」「虚脱」などの状態において、灸による温補が極めて有効です。 刺鍼は行わず、すべて灸による刺激が基本となります。
- ① 急性虚脱・ショック時: 神闕(CV8)+関元(CV4)+気海(CV6)+足三里(ST36) → 塩灸または知熱灸で体温を回復させ、気を引き上げる。
- ② 冷えによる下痢・腹痛: 神闕(CV8)+気海(CV6)+天枢(ST25)+大横(SP15) → 腹部の冷えと腸の蠕動異常を整える。
- ③ 慢性胃腸虚弱: 神闕(CV8)+中脘(CV12)+足三里(ST36)+三陰交(SP6) → 中焦・下焦を同時に温め、脾胃の機能を補強する。
- ④ 産後の冷え・体力低下: 神闕(CV8)+関元(CV4)+腎兪(BL23)+命門(GV4) → 腎陽を助け、気血を温める灸治法。
- 神闕は“人の生門”と称されるほど重要であり、体の芯を温め、生命力の回復を促すための「灸の中心穴」として伝統的に用いられています。
※本サイトは東洋医学における経穴の学習を目的としています。実際の鍼灸施術は必ず国家資格を持つ専門家にご相談ください。自己治療として刺鍼を行うことは危険ですのでお控えください。
0 件のコメント:
コメントを投稿