名称
- 和名:下脘(げかん)
- 経穴:任脈(CV10)
- 英名:Xiawan (CV10)
取穴(位置・取り方)
解剖(近接構造)
- 皮下には白線があり、その下に腹直筋鞘・腹膜がある。
- 深部には小腸上部(空腸起始部)や胃幽門部が位置する。
- 支配神経は第9肋間神経(T9)前皮枝、動脈は上腹壁動脈の枝。
東洋医学的作用(要点)
- 和胃下気: 胃の気を順下させ、嘔吐・噯気を鎮める。
- 健脾調中: 脾胃の働きを整え、飲食不振や腹満を解消する。
- 化湿利気: 湿滞による脘腹の重だるさや食積を除く。
- 通腑除滞: 消化管内の停滞を除き、蠕動を促進する。
主な適応
- 胃痛、腹満、食滞、消化不良。
- 嘔吐、噯気、胸焼け、膨満感。
- 下痢、便秘。
- 胃下垂、胃アトニー。
- 慢性胃炎、消化性潰瘍。
古典的記載・応用例
- 『鍼灸甲乙経』:「治胃中寒逆、嘔吐、食不下。」とあり、胃の寒による嘔吐に用いるとされる。
- 『針灸大成』:「胃中寒熱、脹満を治す。食飲積滞を散ず。」とし、消化不良・腹部膨満への重要穴として記されている。
- 『霊枢・五邪篇』では中脘・下脘・建里を「胃の気を通調する三部の要穴」として位置づける。
刺鍼法・施灸法
- 刺鍼: 直刺 0.8〜1.2寸。深刺し過ぎると腹膜に達するため注意。
- 施灸: 艾炷灸または温灸が有効。特に冷えを伴う胃痛・腹満に良い。
- 温灸を中脘・神闕・下脘に並行して行うと、脾胃を広範に温補できる。
臨床のコツ・刺鍼コンビネーション
- 下脘(CV10)は「胃気を下す要穴」として知られ、胃の上逆(嘔吐・噯気)や、停滞(食滞・腹満)に特に有効です。 胃上部〜中部の不調、つまり“中焦の上部”の機能失調に対して選穴されます。 中脘(CV12)よりも下位にあり、より「気を下す」性質が強いのが特徴です。
- ① 嘔吐・胸やけ・噯気:下脘(CV10)+中脘(CV12)+内関(PC6)+足三里(ST36)→ 胃気を順下させ、嘔逆や胸部のつかえを鎮める。
- ② 食滞・腹満:下脘(CV10)+天枢(ST25)+梁門(ST21)+豊隆(ST40)→ 胃腸の滞りと湿痰を除き、膨満感を軽減する。
- ③ 慢性胃炎・胃下垂:下脘(CV10)+中脘(CV12)+関元(CV4)+足三里(ST36)→ 胃気を整え、気虚による下垂傾向を改善する。
- ④ 冷えを伴う腹部膨満:下脘(CV10)+神闕(CV8)+気海(CV6)+中脘(CV12) → 灸法を併用し、腹部の寒湿を温めながら気の流れを通す。
- 補法・瀉法の応用:
- 虚寒性の胃痛には補法+温灸。
- 実滞(食積・湿熱)には軽い瀉法を行い、胃腸の通利を促す。
- 下脘は「胃中の滞りを下し、脾胃の動きを蘇らせる」調中要穴であり、 胃の虚実どちらの症にも応用できる柔軟性を持つ穴です。 中脘・建里・神闕との連携で、中焦~下焦全体を調整する灸治・鍼治に重用されます。
※本サイトは東洋医学における経穴の学習を目的としています。実際の鍼灸施術は必ず国家資格を持つ専門家にご相談ください。自己治療として刺鍼を行うことは危険ですのでお控えください。
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