鳩尾まとめ:効能・取穴・関連症状

名称

  • 和名:鳩尾(きゅうび)
  • 経穴:任脈(CV15)
  • 英名:Jiuwei (CV15)
  • 別名:鳩尾穴・上気海(古名)


取穴(位置・取り方)

  • 上腹部の前正中線上で、剣状突起下端の下1寸に取る。
  • 中脘(CV12)より上方3寸、巨闕(CV14)より上方1寸。
  • 仰臥して体をやや伸ばした状態で、剣状突起下縁を探り、その直下の陥凹部に取る。


解剖(近接構造)

  • 皮下には白線、腹直筋鞘前葉、腹直筋鞘後葉、横隔膜脚がある。
  • 深部には胃噴門部および心臓下端が近接。
  • 支配神経:第7肋間神経(T7)の前皮枝。
  • 血管:上腹壁動脈・静脈、内胸動脈の枝が分布。


東洋医学的作用(要点)

  • 寛胸理気: 胸や心下のつかえを取り除く。
  • 和胃降逆: 胃気の上逆を鎮め、嘔吐・げっぷを止める。
  • 安神寧心: 心神を安定させ、不安や驚きを鎮める。
  • 通絡止痛: 心窩部の痛みや緊張を緩解する。


主な適応

  • 心窩部痛、胸のつかえ、嘔吐、しゃっくり、げっぷ。
  • 心悸、不安感、動悸、ヒステリー、神経症。
  • てんかん、癇症、驚きやすい体質。
  • 過呼吸、逆流性食道炎、ストレス性胃炎。


古典的記載・応用例

  • 『鍼灸甲乙経』:「鳩尾主心痛、嘔逆、驚悸、膈満を治す。」
  • 『銅人腧穴鍼灸図経』:「心気不足、驚悸不安、胃気上逆を主る。」
  • 『千金方』:「心下満痛、痰飲、癇風、驚怖を治す。」
  • 古来、鳩尾は「心と胃の交わる処」とされ、心下痞・驚悸・嘔吐を兼ねるときに重要視された。


刺鍼法・施灸法

  • 刺鍼: 斜刺 0.3〜0.5寸(下方へ)。深刺は心臓・肝臓損傷の恐れがあるため厳禁。
  • 灸法: 艾炷灸3〜5壮、または温灸。冷え性や胃気上逆に有効。
  • 気滞型の心下痞満には軽い瀉法を用いる。


臨床のコツ・刺鍼コンビネーション

  • 鳩尾(CV15)は「任脈の絡穴」にあたり、任脈の気が胸中・心包・横隔に連なる要穴です。 心下(みぞおち)のつかえ、胸苦しさ、胃上部の停滞感に極めて有効です。 心と胃を結ぶ「心下の関門」として、感情性・精神性の胃症状にも多用されます。
  • ① 胃痛・心下痞満:鳩尾(CV15)+中脘(CV12)内関(PC6)足三里(ST36)→ 胃の気を整え、胸・心下の停滞を和らげる。
  • ② 驚悸・不安・ヒステリー:鳩尾(CV15)+神門(HT7)内関(PC6)太衝(LR3)→ 精神的動揺や自律神経症状に適す。心神安定・気血調整の配穴。
  • ③ 嘔吐・げっぷ・しゃっくり:鳩尾(CV15)+上脘(CV13)内関(PC6)足三里(ST36)→ 胃気の上逆を鎮め、噴門部の痙攣を緩解。
  • ④ ストレス性胃炎・胸苦しさ:鳩尾(CV15)+膻中(CV17)太衝(LR3)期門(LR14)→ 肝気鬱結による胸脇のつかえを通し、情緒性消化不良を改善。
  • ⑤ 胸痛・動悸:鳩尾(CV15)+巨闕(CV14)心兪(BL15)膻中(CV17)→ 心下から胸にかけての気滞・虚弱・不整脈に応用される。
  • 鳩尾は「心と胃の結び目」に位置し、 心の動揺が胃に影響する「心下痞・胸満」の治療に非常に有効です。 精神的緊張がみぞおちに集まりやすい現代人にとって、臨床頻度の高い名穴です。


※本サイトは東洋医学における経穴の学習を目的としています。実際の鍼灸施術は必ず国家資格を持つ専門家にご相談ください。自己治療として刺鍼を行うことは危険ですのでお控えください。

0 件のコメント:

コメントを投稿